大田出版の「超クソゲー2」に載ってる「LSD」の紹介文をTXT化。 *注意点 ・"LSD"のように""で文字を囲っている部分は『太字の強調文字』の替わり。 ・本文のレイアウトと異なる場合があります。 ・写真の部分のコメントは一番下にまとめて書いておきます。 ================================ LSD ジャンル ドリーム・エミュレーター メーカー アスミック・エース 発売日 98.10.22 定価 4800円 ランク ★★★★★ 「こんなのゲームじゃない」という帯コピーを200パーセント忠実に実戦した ドリーム・エミュレーター。ゲームの目的も不明なら、ストーリーらしきものも 全く存在しておらず、プレイヤーは夢をモチーフにした(と思われる)摩訶不思議な 世界をフラフラと歩き回る。BGMにはケン・イシイを起用、その他にも多数の アーティストが参加している、良くも悪くも九十年代を象徴したようなゲーム。 ================================ [ちょこっとアート] とりあえず誤解のないように先にお断りしておきます。 今回の『LSD』レビューにおいてあえて中味についてほとんど言及していないのは ひとえに"語りたくない"からであって、コンセプチュアルな側面から構造を批判する というつもりではありません。 な~んて言っとくとちょっとアートっぽいかな? [時代と寝た人々]  さてこの『LSD』、佐藤理さんというひとりの"強烈な詐" ……あわわ、アーティストによって成立した世界初のドリームエミュレーターです。  いやぁ、ドリームエミュレーターなんてかっこいい概念ですね。まるで、 ・八十年代初頭にはLSDをキメすぎたピッピー崩れのダメハッカーがAPPLEⅡで。 ・八十年代後半にはコカインを決めすぎたミュージシャン崩れのダメゲームデザイナーがAMIGAで。 ・九十年代前半からはマジックマッシュをキメすぎたアーティスト崩れのダメマルチメディア詐欺師がMACで。 それぞれ時代と寝まくった人々により大量生産されてどんどん消えて行ったソフトに 通じるセンスがあるように感じがちですが、先入観はよくありません! そもそも現代アートの大半は手抜きの言い訳でできてますが、それも先入観ですよ、きっとね。 [日本で四十人]  そんなこんなでレッツプレイ! とりあえず、第一印象はプレステ発売当初、某社に遊びに行ったときに 見せてもらった、プログラマがプレイステーションのポリゴン機能の検証用に "てきとうに作ってみた"と言ってたソフトにそっくりです。 それでは分かりませんから、もうちょっと詳しくお伝えしましょう。 そもそもゲームの制作途中にはいろんなツールが同時に制作されます。その中で、 そのゲームの地形を確認するための「ウォークスルー」と呼ばれる。地形を見るだけのツールがあります。 このゲームのプレイ感覚はどうもゲームで遊んでいるというよりも、 そのウォークスルーで地形の確認作業に当たってるような気分になってしょうがありません。  例えば、前任スタッフからの引き継ぎで入ってみて、現段階までに仕上がっているのがこの状態だと知ったら、 かなりのダイナマイトショックを感じることができます。  そうゆう意味で、"ゲーム開発者の悪夢"をそのまんま表現しているという点ではかなり貴重です。 しかし、あんまりにもヒド……じゃなくて、すごすぎるため急いでパッケージを確認しました。 すると帯には"こんなのゲームじゃない"と書いています。 クソゲーハンターですら遠慮して、そこまで書けなかった言葉がモロに書いてありました。 そのとおり! この正直者! 他にも、 「『LSD』は、夢をモチーフにしたドリーム・エミュレーターです。フィールドをさすらい、 様々なキャラクターと出会う。そして気持ちいいとか、気持ち悪いとか、 "面白くないとか、全然ツマラねぇよとか、アートをナメるのもたいがいにしろとか、 そもそもこの企画を通した奴は責任を取ったのかとか、"色々なことを感じるためのゲームです」  と書いてあります。太字で書いたところはクソゲーハンターが"気が付いたら書いてた アドリフ"ですが、そんなアドリフも許容してしまうぐらいこのゲームのゲームじゃなさっぷりは際立っています。 そもそも夢というのは、基本的に未完結な記憶の断片をメチャメチャに繋ぎ合わせたようなものだから、 そうゆう感じを出したかったという"アート魂"は(100歩譲って)分からなくなくはありません。  しかし!夢に出てくる人物や物体は、決してポリゴンがガビガビだったりしない ということを解ってなかった辺りが、このゲームの開発者のセンスなのかもしれません。 好きな人にはたまらないゲームではないかと思いますが、このゲームが好きになれる人間は "日本で四十人ぐらい"じゃないかと思います。 [時効]  そんな超ニッチな企画を通した佐藤さんは本当にスゴイ! さすがはポップアートを 半端に齧って居直ってる人は"タチが悪"……タフ・ネゴジエーターです。  そもそもこの佐藤さんはものすごい経歴の持ち主で、MACの『東脳』、その後の『中天』、 それにプレステで『LSD』といった具合に、端的にいえば"全部この本に載っても不思議じゃない" ゲームばかりです。  しかもそんなゲームでデジタル・エンターティーメント・プログラム (ソニー・ミュージックエンターティーメント主催) 作品部門・人物部門で最優秀賞を受賞してるんだから、世の中というか "ソニーは病んでた"としか言いようがありません。  こうゆう一風変わったアイデアで業界に物申すのは確かに貴重です、確かに。  でも、その際に提示する代替え案が、小学生のゲームアイデアコンテスト応募作品 といっても小学生に怒られそうなイノセント感覚溢れる投げやりプロジェクトであった としたら示しがつきません。  ですが、そんなホワイティーな企画であっても「なんとなくアートっぽい」という 理由で思いっきし騙されてしまうアートかぶれの新興成金的メンタリティが、九十四年 から九十八年にかけてのプレステ文脈の面白さそのものだったとも言えるわけです。  元々ここらへんのソニーの関係者というのはゲーム業界の人間でも何でもなく、 たまたまレコード関係の人間が廻ってきたというパターンが多かったようで、とにかく 怪しさ無限大の「アート」やインチキ臭さ猛爆発の「サブカルチャー」って概念に いいようにあしらわれまくっていました。  サブカルチャーって概念はありがたくもなんともなくて、貧相な僕達の現実を 単に示しているだけだってことは痛いほど分かってるはずですね?  でもこうゆう精神的に頭ハゲらかせてテカテカに脂ぎったギョーカイ系の おじさんたちは、そんなこたぁすっかり忘れちゃってるご様子でした。  ゲーム業界はときどき、業界特有の泥臭さを嫌うあまり、外部のアートとか サブカルチャーとか"詐欺師"とかの概念を導入すればゲームはおしゃれでカッコよく なって、そんでもってテクノとゲームが融合すれば一般層に浸透して売れまくるぜ! ──とかゆう。ものすごい勘違いをした人が出てきます。  でも悲しいかな、そういう人に限ってセンスどころか、"ゲームを見る目すらなかったりする" のが残念なところです。  んでもって、今考えると"どうゆう冗談"なのかよく分かりませんが、この『超クソゲー』 を出している大田出版も、かつては『Quick Japan』(以下QJ)の中で『太陽のしっぽ』を 飯田ワビンさんごとロングインタビューで取り上げていました。  これは個人的には『たけしの挑戦状』の攻略本を出していたことより "100万倍は恥ずかしい前科"ではないかと思っているので、これ以上は追求しません。  追求しません……が!  どうせだったら『巨人のドシン』を出して"見事に反省した今"こそ、もう一度インタビュー してみた方が面白いとおもうけどなぁ。  ともあれ、あのインタビューを読んで「QJカッコワリー!」と叫んでいた クソゲーハンターが大田出版から本を出し、あまつさえQJで『デスクリムゾン』を 紹介することになろうとは思いませんでした。  でも、それが当時の"ゲーム/サブカルチャー騒動"というものだったんでしょう。  結局『LSD』は、ティストとして九十年代初期から中盤にかけて流行った マルチメディア騒動という奴の流れを確実に組んだ、古き良きデタラメな時代の コンピューターカルチャーの息吹を伝えるインチキ臭さが炸裂した逸品です。  MACから始まりプレイステーションに結実していった、"なんちゃってサブカル"文脈 を踏襲したバブル的ゲームプロジェクトの金字塔、最高に意味ありげな存在として 記憶に留めておく必要があります。たとえ、みんなが忘れたいと思っててもね!  最後に。さすがの大田出版も、そんなに古くて恥ずかしい話を、何のフォローもなく 持ち出すとは思ってもいなかったでしょう。  でも、これって"とっくに時効"だよね? (A)阿部広樹 ================================ *写真部分のコメント (ページ数と写真の説明) ・P53 マップ画面 「ウオークスルー」によく似た、マップ上を延々と歩き回ってる場面。 本作の90パーセントはこれに費やされる。 ・P54 宇宙人っぽいモノ 何の脈拍もなくマップ上で出会う謎だらけの緑色の生物達。 隊列を作って歩くのみ。 ・P55 タイトル画面 テクノっぽい……ような気もしなくもない。 昔のアーケードゲームを思わせる画面。 いかにも九十年代的なノリ。 ・P56 舞妓さん これは本当に分からない! 空中をフワフワと舞ってる「舞妓さん」の図 ……ってシャレですか?